労働時間②~黙示の残業命令~

労働時間②~黙示の残業命令~

2023年6月5日

労働時間に関するブログ第2弾として、実務上問題になりがちな「黙示の残業命令」について考えてみたいと思います。

ある会社(従業員30名程)の社長様からも「会社に残って何をしているのか分からないが、その分の残業代は払わないといけないですよね…?」という質問をいただいたこともあり、残業代を支払うべきか否か悩むケースは多いと思われますので、その対策案を含め参考にしていただければと思います。

Ⅰ.労働時間の定義と「黙示」の残業命令

労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれた時間」とされています。

裏を返せば、使用者の指揮命令下に置かれていない時間、つまり使用者が関知しないまま、労働者が勝手に業務に従事した時間は、労働時間ではないため賃金の支払いも不要、という扱いになります。

ただし、「使用者の指揮命令下に置かれた時間」とは、具体的・明示的に業務を指示された時間だけではなく、「黙示の指示」があった場合も労働時間になるとされていますので注意が必要です。なお、「使用者の指揮命令下に置かれた時間」であるか否かは、労働者の行為が使用者から義務付けられ、または余儀なくされていたといった状況の有無等から判断されることになります。

例えば、上司から「今日は〇〇があるので残業してください」といった具合に明確に残業を指示されるのであれば労使双方にとっても分かりやすいのですが、例えば下記①~③のケースはどのように考えればよいのでしょうか。

①明確な指示はないが、納期がひっ迫しているため残業せざるを得ない場合

②他の労働者より先に帰るのが気まずいので何となく残っている場合

③業務上必要はないが、残業代を稼ぐために自主的に残っている場合

共通しているのは、使用者から「具体的・明示的に業務を指示」されていない、という点です。

①の場合、残業を余儀なくされていたといった事情があると考えられるため、労働時間として認められそうです。②③はともに残業をする必要性はないようなので、労働時間には当たらないと考えられそうですが、このような状況を上司や会社が黙認していたとなると「黙示の残業命令があった」と判断され、残業代の支払いが必要となる可能性が高くなるため注意が必要です。

会社としては、①の場合に残業代を支払うとしても、労働の実態がない②③の時間には支払いたくないのが本音でしょう。また労働者間でも、労働の実態がないのに残業代が支払われているとなると、不公平感が出たり、モチベーションにも影響が出たりすると思われます。

Ⅱ.会社の対応

では、上記①~③をどのように線引きすればよいのでしょうか。

会社がとるべき一連の流れとしては、例えば以下のものが考えられます。

①残業については原則禁止とする

②残業をする必要があれば、上長にその判断を仰ぎ、上長からの承認や残業命令を得てから残業をさせる(労働者の判断のみで残業をさせない)

③②で承認された時間に対して残業代を支払い、あわせて業務終了後には退社を促すなど、必要以上に会社に居残らないよう呼びかけや、メールでの注意喚起等を徹底する

いちいち承認を得るのが面倒くさい、という反発もあるかもしれませんが、そもそも労働者には就労請求権(仕事をさせろという権利)は認められておらず、あくまでも会社の指揮命令に従う義務があるに過ぎない、とされております。

導入当初は多少の混乱もあるかもしれませんが、厳格に労働時間の管理が求められ、過重労働防止にも力を入れなければならないご時世ですので、労働時間の管理をいい加減にしたままでは未払い残業代の発生や過労死といった問題にもつながりかねません。

労働時間の管理は使用者に義務付けられており、また残業時間に関しては世間的にも、労働者にとっても関心の高い事項の一つですので、早めに残業の在り方を見直すようお勧めいたします。