賃金のデジタル払いについて

賃金のデジタル払いについて

2023年5月12日

2023年4月から、賃金のデジタル払いが解禁となりました。デジタルマネーのヘビーユーザーの方にとっては給与受け取りの選択肢が広がることへの期待もあることでしょう。制度の概要と会社が対応すべきポイントを整理してみます。

●導入までのスケジュールは?

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(1)令和5年4月1日から、資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行うことができます。

(2)申請を受け付けた後、厚生労働省で審査を行い、基準を満たしている場合にはその事業者を指定します。この審査には、数か月かかることが見込まれます。

(3)その後、各事業場で、賃金のデジタル払いを行う場合には、利用する指定資金移動業者などを内容とする労使協定を締結いただく必要があります。

(4)その上で、労働者は賃金のデジタル払いの留意事項を説明を聞き、理解した上で、賃金のデジタル払いを希望する場合には、使用者に同意書を提出することが必要です。この同意書に記載する支払開始希望時期以降、賃金を資金移動業者の口座で受け取ることができるようになります。

(厚生労働省HPから抜粋)

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厚生労働省のHPによると資金移動業者(●●Payなど)が指定申請を行い、審査が完了するまで数か月かかる見込みとのことですので、実際にどのデジタルマネーが利用可能なのか明らかになるのは早くても2023年後半になりそうです。

会社としては、指定資金移動業者が出揃い、サービス内容が明らかになった時点で賃金のデジタル払いについて検討することでも遅くはないと思います。

●会社として対応すべきことは?

賃金のデジタル払いは、賃金の支払・受取の選択肢の1つです。つまり、必ず実施しなければいけないものではありません。また、労働者が希望しない場合は賃金のデジタル払いを選択する必要はなく、これまでどおり銀行口座等で賃金を受け取ることができるので、会社がデジタル払いを導入しても希望する労働者がいないこともあり得ます。

会社は実際の制度導入にあたって、労働者の希望や労使双方へのメリット・デメリットをよく検討する必要があります。

メリットとしては、賃金のデジタル払いを希望する労働者(求職者を含む)のニーズに応えられる点が挙げられます。

今後の展開として、●●Payなどの資金移動業者が賃金のデジタル払いを選択するユーザーへのポイント付与などを行い利用者獲得に動く可能性があります。デジタルマネーを頻繁に利用する人たちにとっては、賃金のデジタル払いは魅力的な選択肢となりえるでしょう。また、先進的な取り組みを行う企業として求職者へアピールすることも可能になると思われます。

一方、デメリットとして会社の給与支払いの手間が増える点が挙げられます。

給与支払いの選択肢が増えるということは、企業の給与担当者にそれなりの事務負担がかかることは避けられません。導入時には制度設計や従業員説明など、入念な準備も必要となります。現時点では振込手数料などのランニングコストも不明なため、経費削減・生産性向上に結び付くとは言い難く、企業として導入メリットが大きいとは言えないでしょう。

会社としてはしばらく様子を見て、社会全体で賃金のデジタル払いがある程度浸透しノウハウが積み重なった時点で導入を本格的に検討することが良いと思います。

●賃金のデジタル払いを実施するために必要な作業は?

実際に賃金のデジタル払いを実施する場合は、次の手順を踏むことになります。

① 労使協定の締結と就業規則(賃金規程)の改定

労使協定には以下の内容を記載する必要があります。つまり以下の内容について検討し決定しなければなりません。

(1) 対象となる労働者の範囲

(2) 対象となる賃金の範囲、金額

(3) 取り扱い指定資金移動業者の範囲

(4) デジタルマネー払いの開始時期

② 労働者への説明と同意書の取得

同意書は厚労省HPに参考様式があります。

https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001017091.pdf

いかがでしたか?賃金のデジタル払いは注目の制度ではありますが、メリットもデメリットもあることがわかりました。

従業員からの問い合わせがあった場合は、以上に記載したスケジュール感や「現時点では今後会社として導入するかどうかを検討していく段階である」ということをお伝えすると良いでしょう。