月60時間超の時間外労働に関する割増賃金の引き上げについて ~代替休暇についても解説~

月60時間超の時間外労働に関する割増賃金の引き上げについて ~代替休暇についても解説~

2023年5月12日

2023年4月から労働させた分について、中小企業においても月60時間超の残業割増賃金率が50%に引き上げられました。労働時間の集計方法についてあらためて確認しましょう。

例えば、下図に示すような残業を行った場合の労働時間集計は次のとおりとなります。

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【例】における各週の残業時間

1週目 20時間

2週目 20時間

3週目 14時間

4週目 6時間(ここまでで月60時間到達)+6時間(月60時間を超える部分)

5週目 4時間(月60時間を超える部分)

法定休日労働 8時間

それぞれの残業時間に対する割増率は次のとおりです。

60時間分→25%

60時間超の10時間分→50%

法定休日8時間分→35%

※月60時間超の残業時間集計には法定休日労働は含みませんが、所定休日の残業時間は含めますので注意してください。

※月60時間超の残業が深夜時間帯に発生した場合は、60時間超の割増率50%に加え深夜割増率25%が加算され割増率は75%となります。

ここで注意していただきたいのが、36協定との関係についてです。

時間外労働の上限は原則月45時間です。それ以上の時間外労働をさせる場合は36協定に特別条項の定めが必要となり、また残業の理由は臨時的な特別な必要性のある場合に限られます。割増賃金を支払えば何時間でも残業をさせて良いということではありません。適正な労働時間管理を行いましょう。

●代替休暇とは?

60時間を超える残業時間について、加算分の割増賃金を支払う代わりに休暇を与えることができます。

ただし休暇に代替できるのは今回の法改正による引き上げ分のみです。(下図参照)

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代替休暇の時間数は次の計算式で算出します。

代替休暇の時間数=(1か月の法定外労働時間 – 60時間) × 換算率

換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率(上図では150%)から代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率(上図では125%)です。

換算率= 150% - 125% = 25%  

※各社で定める割増率による

例えば60時間超残業が20時間発生しているとき、その時間数に対して25%の 

20時間×0.25=5時間

の代替休暇が取得可能となります。

●代替休暇の取得単位は?

まとまった単位で与えることによって労働者の休息の機会を確保する観点から、1日または半日単位で与える必要があります。

半日については、厳密に1日の所定労働時間の半分でなく午前3.5時間、午後4.5時間という定め方も可能です。

端数時間については、割増賃金として支払うか、他の有給休暇(特別休暇や年次有給休暇など)と合わせて取得することになりますが、後者の場合、時間単位年休の使用は労働者の請求が前提となります。

様々な取得パターンが考えられますので、どのようなパターンを企業として認めるかを検討し、労使協定で定めておく必要があります。

【例1】1日の所定労働時間が8時間で代替休暇が5時間ある場合

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→5時間の代替休暇と3時間の時間年休で1日の休暇とする

【例2】半休の単位が4時間で、代替休暇が5時間ある場合

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→4時間を代替休暇で半休し、残りの1時間分は給与で払う

●代替休暇の取得時期は?

1か月の残業が60時間を超えた月の勤怠締日翌日から2か月以内の期間に与えることが必要です。2か月以内なので1か月とすることも可能です。

この期間内に取得されなかった場合は、代替休暇として与える予定だった割増賃金分を支払う必要があります。

また、期間が1か月を超える場合は、1か月目の代替休暇と2か月目の代替休暇を合算して取得することも可能です。

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代替休暇制度の導入は義務ではありません。制度を設ける場合は、管理がかなり煩雑になることが想定されますので、社内の運用フローをしっかり検討する必要があります。

そもそも長時間労働が恒常的に発生していて年次有給休暇の取得もままならないというケースでは代替休暇制度が機能しないことも考えられます。長時間労働そのものを抑制する取り組みが求められているといえます。

以上、月60時間超の時間外労働に関する割増賃金の引き上げと代替休暇について解説しました。

36協定との関係にも注意しながら、適切な労働時間管理、割増賃金の支給をしていきましょう。