労働時間①~歓送迎会の準備時間は労働時間?~

労働時間①~歓送迎会の準備時間は労働時間?~

2023年5月12日

新年度を迎え、また今年はコロナ禍もある程度落ち着いているようで、新入社員の歓迎会や退職者の送別会を開催する会社も多くなっているようです。

そしてこの時期、若手社員にはありがちかと思いますが、知人のAさんがこぼした愚痴(?)【上司から歓送迎会の幹事をするように言われたんですが、これってボランティアなんですかね?】を題材に、労働時間と会社の取るべき対応について少し考えてみたいと思います。

Ⅰ.概要

Aさんの話では、就業後に、退職者の送別会と新入社員の歓迎会を兼ねた会を開催することとなったそうで、Aさんがその幹事に任命されたとのことです。

Aさんとしては通常業務をこなしつつ、別途歓送迎会の準備(出欠確認やお店の手配、贈答品の用意等)で時間を取られてしまう上、その準備のために残業をしても手当がつかないことからとてもご不満の様子でした。

Aさんが会社の就業規則等を確認したところ、事務分掌には「歓送迎会の準備等」と明確に定めがあったそうで、「歓送迎会の準備等で残業をするのだから、残業代を払うべきでは?」と上司に掛け合ったものの、「歓迎会は業務ではないから」と言われてしまったそうです。

会社や上司としては、歓送迎会なのに野暮なこと言うなよ、という意見なのかもしれませんが、労働者からこんな質問を受けたとき、会社はどんな対応をするべきなのでしょうか。

今回は、Aさんの質問を基に、労働時間の考え方、具体的には歓送迎会の幹事の業務は労働時間に該当するのか、もっと言えばその時間に対して賃金を支払う必要があるのか、を考えてみたいと思います。

「労働時間とは」を考える上で参考にしていただければと思います。

Ⅱ.労働時間の定義

まず、労働時間の定義は実務上確立しており、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であるとされています(三菱重工長崎造船所事件・最判平成12年3月9日)。そして労働時間に該当すれば、会社は当然に賃金を支払わなければなりません。

注意が必要なのは、個別の労働契約や就業規則等に1日8時間、1週40時間といった記載があったとしても、あくまで「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」が労働時間となる点です。

そして、指揮命令下に置かれているかどうかは、具体的なケースごとに判断されますが、多くの場合、下記①~③の要素を考慮し、労働時間に該当するか否かが判断されることになると思われます。

①義務付けの程度 

②業務性の有無(業務との関連性) 

③時間的・場所的拘束性の有無

Ⅲ.Aさんの歓送迎会の準備時間は労働時間に該当するか

では、Aさんの歓送迎会の準備時間が労働時間に該当するか否か(そして残業代を支払わなければならないのか)、について検討してみます。

Aさんの言い分を検討すると、上司から「歓送迎会の幹事」を命じられている点、就業規則(事務分掌)にもAさんの担当業務として「歓送迎会の準備等」と明示されている点、また、上司からの命令である以上、Aさんに幹事業務を拒否したり、歓送迎会へ参加しないという選択肢もなかった点を考えると、上記①義務付けの程度、②業務性の有無をある程度満たしているように思われます。

また、一般的に幹事が歓送迎会の場にいないというのも考えにくいため、③時間的・場所的拘束性についても認められそうです。

一方、会社側は「歓送迎会の準備は業務ではない」という一言で済ませてしまっているようですが、上記の①~③のポイントを考えてみると、労務管理の在り方としては不適切といった印象です。

すなわち、就業規則で「歓送迎会の準備」が業務として明示されており、実態としてもAさんの行為が上記①~③を満たすのであれば、歓送迎会の準備時間は労働時間となり、残業が発生すれば残業代の支払い義務が生じるものと考えます。

双方の事情を事細かに聞いてはいないので何とも言い難いのですが、業務終了後、歓送迎会が開催され、その会に出席が強制される(「参加しない」)という選択肢が無いとか、参加しなかった場合、人事評価上の不利益となるとか、そのような事情があるのであれば、やはり労働時間として扱うべきでしょう。

なお、幹事業務が単なるお願い(拒否しても構わないし、人事評価等にも影響はしない等)であって、就業規則にも定めがなく、完全に労働者の任意であった、という事情であれば、対応は異なるものと思われます。

Ⅳ.社の対応

会社としては、

(1)歓送迎会の準備等が就業時間後に及ぶのであれば残業代を支払う

(2)就業後に「有志のみ(完全に任意)」で歓送迎会を開催する

(3)就業時間「内」に歓送迎会の開催を含め、準備をさせる

等の工夫も必要かもしれません。

令和5年4月以降、中小企業にも1か月60時間超の法定時間外労働に対して、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならなくなりました。労働時間の管理を疎かにしてしまうと、賃金未払いの問題にも発展しかねないため、労使紛争を予防する意味でも、どんな時間が労働時間に該当するのか、この機会に一度見直してみるのも良いのではないでしょうか。

1か月60時間超の法定時間外労働に対して必要な対応については、こちら の記事もご参照ください。